オスカー賞もの

感゛う

ここ2.3年、下北沢の美容室でまつげパーマをかけているのだけど、
激安だけあって、口の臭いのや鼻が悪いのや、指先がヤニ臭い
美容師にあたることもある。
先日行った時は、頭のはちの張った、異様に背丈の低い女が、
担当です、と名乗った。
すぐに、女の鼻の頭にいくつも角栓の詰まった毛穴が黒ずんでいるのが
目について、なんかあまりすきになりれない、と思ったけど、
じろじろ見るのもぶしつけなので、すぐに施術台に横たわって目をつむった。
話しかけてくる女は、えらい早口で、口ごもったり言い間違えたり、
つまらんお世辞をうかれた調子で言ってくるので、うんざりした気分
になったのだが、いちおうからからの返答をしていた。
箱マダムは美容師との会話が大の苦手。
特に今どきの若いのに、テレビドラマの話やはやりの音楽や映画の話を
振られると、わからないもの・興味のないものが多いし、それでも必死に
標準的意見を言おうと思うからやたら気疲れする。
美容室に行くのはだから億劫だ。
担当の女は、自分はいろんな店鋪をわたり歩いてどこでも重宝されてた、
とか手前の技術を誇るような口ぶりなのでだらだら喋るので、
ほんと丁寧でいいですね、と適当なあいづちをしたら、それが気に入ったみたいで、
「そうですか、わたし丁寧ですか」とよだれっぽい口跡で自慢げにいつまでも
繰り返しているので、その執拗さからふと思った。
この人は、ただの小汚い変な女じゃなくて、軽度の「ちてきしょうがいしゃ」
なのかもしれん、と。
それなら合点がいくことが多い。妙にずれる会話の間やしつこさ、やたら早い口ぶり。
ああそうか、この店は大手の美容室チェーンだから、特別な雇用枠があっても
不思議じゃないし。手先が器用だと、自活の場があって恵まれている、と感心した。
施術が終わって、女の顔を観察してみると、造作が中心に偏った感じで、目つきも
寄り気味である。これは間違いないと、と思った。
女は「きっとカールのもちは今までよりずっといいと思いますよ。次回もわたしを指名
してください」と頭を下げた。
・・あら、常識的なあいさつだわ。さっきの確信が揺らいだ。
会計伝票に署名する女の手元をじっと見ていたら、きれいな筆跡で苗字を書き、
わたしを見上げて微笑んだ。
あ・この人「ちてきしょうがいしゃ」じゃないわ。
箱マダムは人でなしなんでしょうか? ただ、人を見る目がないだけ?


※写真は以前、箱マダムが興味ぶかく鑑賞した、感動のドキュメンタリー映画
に主演した男優(ほんもの)です。