鮮烈なもの

1月読んだ本。
ちかごろ、著作すべてに感服・尊敬もうしあげる作家にあわない。
あれはいいが、これはだめ。出来むらにがっかりする。
きれいで平易な言葉で淡々とした中庸な日常の描写や
ささやかな感情の機微をほのぼの描く、またはいきつくところ
ラブファンタジー。そんな類いは受けつけない。
近年それこそが主流なので、金臭く、生臭い文体に飢えていた。
若合春侑車谷長吉に巡りあってこれだ、と腑に落ちた。
文章に血肉が通っている。けして人の本質を善くは考えていない。
欲や嫉妬にもがく人、汚濁に浸かる人を蔑んだり、誇大せず、
きちんと描く。濃厚な味わい。
若合春侑は旧仮名遣いで小説書いても達者。
時代設定が大正終わりから昭和の始めごろ、ヒロインの視点で
心理や情景の描写をするなら、旧仮名遣いの方がしっくりくるくらいだ。
どうも、現代口語でやられると、うすっぺらくていけない。
一時、なんのつもりかシイナリンゴが記述を旧仮名遣いでやっていた時には、
いやぁな感じがしたが、気と真にあふれた文章を旧仮名遣いで読むのは苦にならない。
車谷長吉は映画「赤目四十八瀧心中未遂」をみて気に入り、原作も読もうと思った。
暗い、気鬱のこもった話だが、読むうち妙に胸が騒ぎ、すっかり引き込まれた。
主人公の男はヨステ人となって・なりきれず、四方をあくの強い隣人で囲まれる。
この漂流潭は尼崎が舞台だが、中上健次が繰りかえし描いた『路地』を彷佛とさせる。
「忌中」もすばらしかった。

★その他読んだ本
「うそうそ」
「銀幕の昭和 スタアがいた時代」
「贅沢貧乏暮らし」
「蜻蛉」若合春侑
「海馬の助走」若合春侑
「小説探偵GEDO」
ジーヴスもの」PJウッドハウス
よしきたジーヴス、比類なきジーヴス、でかしたジーヴス