どこか遠くにいきたい、か?

箱マダムには旅行したい、特に海外にいきたいという欲がない。
同じ歳くらいの人だと、平均して4.5回、多い人では10数回も海外旅行の経験がある。
独身時代にはボーナスなど遣って、できるかぎり海外へ行きたい、とだいたいの人は
思うようなのだ。
写真をいっぱい撮って(ランドマークの前で平凡なポーズ)、高級ブランド品を
安く買って、旅を満喫したと得意げに話すのを見ると、愚かしいと思う。
(貧乏)パックパッカーたちの旅行も、現地人とのふれあい・出会い話を聞いてると、
その経験で真の成長を遂げる人、のちに果実成す人がどのくらいいるのかと懐疑。
箱マダムには、海外に行って、言語や習慣の違いから不便な思いをしたり、
卑屈な気持ちになったり、胃腸を壊したり疫病にかかったりするのではないか、
という恐怖心がある。
行くならば、どこに行っても清潔で、味覚の合った食物で、意志の疎通がしっかり
できる国内旅行に限ると思う。
旅行記を読むのは愉しい。
最近も伊丹十三著「ヨーロッパ退屈日記」と、車谷長吉「世界一周恐怖航海記」
を読んだ。
伊丹十三監督の映画作品は、独特の臭みというか俗っぽさが生理的にだめだった。
70年代にスポーツカー(ジャギュア)を乗り回し、服飾や美食に一言ある伊達っぷりを
初めて知った。
その時期、海外監督のオーディションを受けて、チャールストンヘストンや
ピーターオトゥールなどと共演もしている。
若いころはこんなに豪胆で、確固たる美意識の持ち主だったのに、つまらぬ
週刊誌記事に追い詰められてスキャンダラスな最期を遂げたとは。無念。
アメリカ人独特の、身についた正義の身ぶりで愚かしくしゃべりたてる。これは我慢
がならない。屈折のない心、含羞のない心、これは我慢がならない。」
この一文を読んで、そのとおりと頷く。
「世界一周恐怖恐怖航海記」は、夫婦で客船による世界一周の旅に出たときの日誌。
車谷長吉も旅行嫌いだという。「嫁さんにせがまれて」嫌々の航海だったらしいが、
わたしは水が怖いので、絶対に行かない。
航海中は、船酔いと下痢と便秘になやまされたとかで、ああッ、それもいやだ。
船上の人間関係もややこしそうだし。
暇と金のかかる客船旅行なんて、面子がしれてる。
海原はどこまでも続くよと壮大な景色ではなく、孤独と閉塞感染み入る環境なのだ。
欲まみれでいやな人ばかり、じぶんは罪深い世から早くおさらばしたい、と
「死の安らぎ」に憧れ、呟く車谷長吉が、深沢七郎とだぶる。
かって代々木参宮橋に住居を持ち、そのあと杉並区久我山へと移った、と若き日の
遍歴を書いていたが、代々木参宮橋は現在、箱マダムがすんでいるところ、
久我山はいもうと夫婦が住んでいるところ。
狭くはない23区内での不思議な一致である。