痛いよ!

不意のアクシデントで下唇をざっくり切ったその日の夜に
ちょうどアタシもカレシにふられたんです、と電話口で年下の
かわいいともだちが涙ながらに言うのを聞いて、彼女との不思議な
絆を感じ、それは突然のことでさぞ痛かったでしょう、と真に心の
こもった慰めの言葉を吐くと、彼女はおもわずウウっと喉から咆哮を上げた。
思わぬところで年下のともだちをいたく感動させたのである。
熱く痛むのはわたしの唇の傷だというのに。


金井美恵子の『「競争相手は馬鹿ばかり」の世界へようこそ』を
読み上げたばかりなので、あの陶酔にたゆたう息の長い文章の世界
から抜けきれない。
素晴らしいよ、かの方は。
「趣味は読書です」とのたまう奴に金井美恵子は好きかと聞くと、
大体知りませんし読んだことありませんと言うので、箱マダムは
本は好きだろうが本が読めない輩と決めつける。
そうですよ、箱マダムは居丈高でおおむね決めつけで物を言いますよ。
マダムは死んだ作家がすきです。
金子光晴武田泰淳の文章が理想です。
いまや世廃れ、情けなさと粘着的な性質と硬質な美意識が鉱物のように
地に輝き仄めく文章を書かせるのです。


電話口で年下のともだちが言ったんです。
田口ランディがホンで書いてたんですけどぉ・・男ってぇ・・」って。
知らん!
ランディ引用するなんて。ガーッ。そんなんだから恋破れるんだ。
「いっしょにセカチュー観に行ったのにぃ」
ばかか!
男はあんたが死なないから物足りなく思ったんでしょ。
・・禁句です。また泣かせてしまいました。
すまなさに唇噛んだらまた出血してきた。
アイタタ。