見るものなんだなあ

あ・今月から働きはじめたんですよ。
一ヶ月で無職オワリ。また失業手当もらいそこねた。

西新宿の中層ビルにマダムの新しい職場はあるんだけど、
電話業専門の派遣会社が同ビルにごちゃごちゃ入ってて、
9時前の出勤時ともなると、一階のエレベーターホールには
服飾に金かけてる若いコやギターケース背負った若いコや
我の強そうな「芝居やってます」顔のコがひしめくんだな。
フリーターさんたち。
あの・・フリーターって言葉はわりと廃れたほう? 
言葉は死なないけど、変質はするから。
恥ずかしながら、ノンポリを名乗ったことがあります。

無職の時読んでた求人誌で何社かの電話専門の派遣会社が
「夢を応援したい」「夢追人歓迎」ってコピーで求人してるのを見た。
バンドや芝居をほんとうの「夢」として、うちの仕事はシフトが
自由に組めるから「夢」実現の邪魔をしないって意味らしい。
「夢は見るものじゃない!叶えるもの!」っていうのは
外資ネットワークビジネス商社の合い言葉だけども、
そういや今巷に流れる曲の歌詞で「夢は強く願えば叶うよ」
っていうのがある。聞いた時びっくりしたけど。
・・願うだけ? ほんとですか? 
マダムが思う「夢」ってのは、かつて漱石やヒャケン(漢字表示できない)
が小説に書いたような、現実がエロティシズムと奇怪に粉飾されて
支離滅裂だけど妙に心に残ることだ。
知性の痙攣っていうのかねぇ。
現代的「夢」って、どうもそういうのじゃなくて
「願(欲)望」に近い言葉に変質したんだなぁ。平易っていうか。



ある日マダムはエレベーターに乗りあわせたひとりの女に
なんか見覚えあって、かわいらしい顔と異常な背の低さが珍しく、
やあ・この人前に脚本書いた芝居に出演してた女優だわ
と間もなく思い当たったのだけど、名前が出てこない。
役名はすぐわかったのだけど。
女優もこちらに気づいて、自分からあいさつすべきか
逡巡するような素振りもみえるのだけど、
マダムは結局無視で通しました。
女は途中階で降りる時に、口惜しいような(呪怨的)視線をマダムに
投げかけていったのだけど、2ヶ月ちかくあった芝居の稽古期間でも
ふたりはちっとも仲良くなれなかったので仕方ないですね。
まあ、よしんば挨拶し会話したとしてもわたしは
「まだ女優やってるの?」とか、嫌味にとられそうな一言しか
思い浮かばないですから。

それからなんどか彼女を見かけるのだけど、まだ挨拶できてないなぁ。
心の中で彼女の「夢」を応援するだけです。
ほんと、です。