防疫

マウス・パニック。
ハワイから帰国してみると、ごみ箱は倒れ、ドレッサー周りの綿棒や
コットンが散らばり、あら・泥棒?と青ざめるほどの室内の乱れっぷり。
部屋の隅には使用済みのティッシュペーパーや綿埃を寄せ集めた巣らしきもの、
点在する黒い塊。まぎれもく、忌わしきペストの死神が、我が家に侵入した
という証を目の当たりにして、箱マダムは卒倒しそうになりました。
もともとミッキーマウスは虫が好かなくて、「トムとジェリー」では断然
トム贔屓。とにかく小賢しいゲッシ目類が大嫌いなので、この状況はもう最悪
としか言いようがなく、半泣きで家中這いつくばり巣や糞を始末してまわりました。
どうやって箪笥からひっぱりだしたのやら、箱マダムお気に入りのシルクストッキング
片方・夏用のレース手袋片方を巣の中に見つけたりして、もうヒステリー状態です。
殺鼠剤と捕獲用の粘着シートを山ほど買いこみ、みな殺しみな殺しと鼻歌まじりに
ばらまいたのですが、うっかりわたしが粘着シートを踏んづけ、スリッパ2組
だめにしてしまう始末。敵もさるもの、罠仕掛けた腹いせかしらないけど、
わたしが寝ついたころに這い出してきて、寝室入り口の引き戸を齧る。
たまらず電気を点ければ敵の姿はなし、とその繰り返し。
箱マダム憔悴の果てに、とうとう業者を呼んで駆除してもらうことにしたのですが、
その業者というのがまたくせもので。
「東京でトップクラスのプロ。やつらのことならなんでも知ってます」と電話口で
大アピールするもんだから、どんなつわものと思いきや、
古びた毛糸のチョッキ姿で現れたのは小柄なオジイサン。
出入口とおぼしき処は全て覆ったので、これでもうやつらはおしまいです、とオジイは
断言したのに、糞は相変わらず落ちてるし、まだ物陰で蠢く気配もするし、
オジイを再度呼びつけると、足跡を辿って行動を検証するとか言って、片栗粉を
部屋のあちこちにばら撒き、わたしに粘着シートを20個一斉に置くようにと手渡し、
帰ってしまいました。そんな素人仕事で「東京都の優良業者」って名乗るわけ?
おまけに去り際、「奥さん、化粧でずいぶん化けますなぁ。まるきり別人ですよ」
と暴言を吐き、そりゃあ、初対面の時のわたしは素っピンで髪もぼさぼさだったけど、
今日は出勤用にメイクはしたけど、特殊メイクというほど気合い入れてるでもなし、
別人というほど素もひどくないぞ。
「いやいや・化粧するとふるいつきたくなるほどの美人ですなぁ」
・・しつこい。それに、ふるいつきたくなるような、ってなんだ。
色ボケか?くそじじい。
もう・人もいっしょくたになって箱マダムにいやがらです。